大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和61年(行コ)3号 判決

第一審原告

紅屋商事株式会社

右代表者代表取締役

秦計機雄

第一審被告

青森県地方労働委員会

右代表者会長

高橋牧夫

右指定代理人

関谷耕一

菊池盛

三国善一

斎藤茂

浜谷雅人

小川政幸

第一審被告補助参加人

紅屋労働組合

右代表者執行委員長

坂田栄三

右訴訟代理人弁護士

二葉宏夫

右訴訟復代理人弁護士

小野寺照東

主文

一  第一審原告の本件控訴を棄却する。

二  第一審補助参加人の本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告が昭和五四年(不)第五号不当労働行為救済申立事件について昭和五八年八月一八日付でした命令中、「役職手当に関する部分」を取消す。

2  第一審被告が昭和五五年(不)第八号及び同年(不)第九号不当労働行為救済申立事件について昭和五八年八月一八日付でした命令中「棟方義則を除くその余の者についての職責手当に関する部分」を取消す。

3  第一審原告のその余の請求を棄却する。

三  第一審被告の本件控訴を却下する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一二分し、その一を第一審被告の、その余を第一審原告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第一審原告

1  原判決中第一審原告敗訴部分を取消す。

2  第一審被告が昭和五四年(不)第五号、昭和五五年(不)第八号及び同年(不)第九号不当労働行為救済命令申立事件について昭和五八年八月一八日付でした命令をいずれも取消す。

3  第一審被告及び第一審被告補助参加人の本件各控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

二  第一審被告及び第一審被告補助参加人

1  原判決中第一審被告敗訴部分を取消す。

2  第一審原告の本訴請求を棄却する。

3  第一審原告の本件控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び当審記録中証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決四枚目の表中の「職責手当」の欄の残間仁の分「五、〇〇〇円」を「四、〇〇〇円」と、安田高子の分の「四、〇〇〇円」を「三、〇〇〇円」とそれぞれ改める。)。

理由

一  第一審原告主張の請求原因一の事実(本件一の命令並びに本件二の命令の存在及び各その内容)については当事者間に争いがない。

二  第一審原告は本件一の救済命令並びに本件二の救済命令が発せられる原因となった各救済申立は除斥期間経過後の申立であるから、各救済申立は不適法である旨主張するけれども、この点については、当裁判所も、第一審被告補助参加人のなした各救済申立は法定の申立期間内になされた適法なものと判断するものであって、その理由は原判決理由第一(原判決一四枚目裏末行から一五枚目裏五行目まで)に説示するとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし原判決一五枚目表四行目の「始めて」を「初めて」と、同裏四行目の「救済命令」を「救済申立」と改める。)。

三  よって以下本件一の命令並びに本件この命令の内容について判断する。

1  本件一の命令について

当裁判所も、本件一の命令については、その役職手当に関する部分は違法であり、第一審原告の本訴請求中右部分の取消を求める請求は理由があるから認容し、その余の部分の取消を求める請求は理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、左記のとおり付加、訂正するほかは原判決理由第二(原判決一五枚目裏六行目から同二五枚目表三行目まで)に説示するとおりであるからこれを引用する。

(一)  原判決一六枚目裏四行目からから五行目にかけての「原告会社では」から同六行目の「争いがない)、」までを「(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、第一審原告における昭和五三年度の賃金規定では、男子二五才以下についてはA賃金規定、男子二六才以上又は女子二二才以上はB賃金体系、男女四一才以上はC賃金体系、女子二一才以下はD賃金体系と区分しており、同区分によれば、本件一の救済命令の対象となった組合員のうち千葉勇治と蝦名久男の二名はC賃金体系に、その余の一〇名はいずれもB賃金体系に属するものであり、男子はいずれも勤続五年以上、女子はいずれも勤続四年以上であることが認められるから、」と改める。

(二)  同一六枚目裏九行目の「看る」を「見る」と改める。

(三)  (証拠の訂正・略)

2  本件二の命令について

(一)  基本給について

(1) 次の事実は当事者間に争いがない。

第一審原告が昭和五四年度以降適用すべきものとして定めた新給与規定においては、四〇才以下の者に適用されるA給与体系と四一才以上の者に適用されるB給与体系とがあり、A給与体系の基本給は年令給、職務職能給、教育給を合算したものであって、このうち年令給と教育給は学歴、年令により自動的に決定されるが、職務職能給は人事考課に基づく職務職能給の表(本件二の命令の別表1)の格付に応じて決定される。また、一定の役職に就いた者又は特定の職種で働く者には職責手当(本件二の命令の別表2)が支給されることとなっている。昭和五四年度の職務職能給の内訳、金額は本件二の命令の別表1のとおりであるが昭和五五年度は賃金改定により四級が廃止された。

昭和五四年度賃金改定に関する昭和五四年七月一五日の協定調印後、本件二の命令別表3記載の組合員の基本給が同表該当欄記載のとおり決定され、これに対し同別表4記載の非組合員の給与が同表のとおり決定された(ただし、氏名「23」の年令給、職務職能給、「30」「V」「10」「W」の職責手当を除く。)。

昭和五五年度賃金改訂に関する昭和五五年七月一二日の協定調印後、本件二の命令の別表5記載の組合員の賃金が同表のとおり決定され、同別表6記載の非組合員の給与が同表のとおり決定された(ただし、氏名「Ⅰ」「28」「72」の職責手当、「30」の等級、職務職能給、職責手当、「K」の年齢給を除く。)。

(2) 右の別表4及び6の非組合員の職務職能給のうち争いのあるものについてみるに、(証拠略)によれば、別表4の氏名「23」の者の職務職能給は七万二六〇〇円、別表6の氏名「30」の者の職務職能給は八万八〇〇〇円であることが認められ、(証拠略)中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(3) 右にみたところによれば、本件二の救済命令の対象となった各組合員のうちA給与体系に属する者は、いずれも別表4及び6の非組合員のほぼ同一の勤続年数の者と対比するとその職務職能給が低位に位置付けられていることが明らかである。すなわち、右各組合員は昭和五四年度で勤続年数五年以上九年以下であるところ、同年度の職務職能給はいずれも三万八〇〇〇円であるのに、同年度の別表4の非組合員の男子従業員は勤続年数二年以上八年以下で職務職能給の平均が五万七八四一円となり、同年度の別表4の非組合員の女子従業員は勤続年数五年以上八年以下で職務職能給の平均が四万二七〇九円であり、男女とも相当の格差がある。また昭和五五年度には、右各組合員は勤続年数六年以上一〇年以下であるところ、同年度の職務職能給はいずれも四万一八〇〇円であるのに、同年度の別表6の非組合員の男子従業員は勤続三年以上九年以下で職務職能給の平均が六万三六二二円となり、同年度の別表6の非組合員の女子従業員は勤続年数六年以上九年以下で職務職能給の平均が四万八八〇〇円で、同年度も男女とも相当の格差がある。

(4) なお第一審原告は、別表4及び6のように組合員らとほぼ同一の勤続年数の非組合従業員を抽出して対比することには合理性がなく、非組合員全員と対比すべきである旨主張するが、(証拠略)によれば、第一審原告の従業員らは、多少のばらつきはあるものの、全体としてみると、勤続年数の多い者の職務職能給が多くなっていることが認められるから、右のように組合員とほぼ同じ勤続年数の者を選んで対比することには十分な合理性があるものというべきである。

(5) 次に、B給与体系に属する組合員千葉勇治についても、別表4及び6の非組合員「F」とほぼ同年齢で職務が同一で勤続年数は千葉勇治が長いのに、基本給が右「F」は昭和五四年度で一〇万五〇〇〇円、同五五年度で一一万円であるのに、千葉勇治は昭和五四年度で九万五〇〇〇円、同五五年度で一〇万円と低位に位置付けられている。

(6) (証拠略)によると、第一審原告は、残間仁、棟方、渡辺に対し、仕事上の誤り、非能率の事実を指摘して警告書や注意書を発し、始末書を徴したり減給処分に付した事実のあることが認められ、原審証人秦勝重の証言、弁論の全趣旨によると、第一審原告は組合員全員を非組合員に比し勤務成績不良と評価している事実が認められるが、警告書等に指摘された右組合員の仕事上の誤りが組合員のみに特有のものとは認められないし、第一審原告代表者の組合に対する嫌悪の感情が組合員に対する勤務成績の評価と無関係ということはできないから、前記のような評価がなされているからと云って、それをもって組合員の勤務成績が非組合員に比し給与の格付の面で差別し得るほどに劣っているとは認めることができない。

(7) 第一審原告代表者が組合を嫌悪していることは前記認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、このことは昭和五四年度及び同五五年度も変りのないことが認められる。

(8) 以上によれば、昭和五四年度及び同五五年度についても、組合員の職務職能給が全体として低額に格付されているのは、第一審原告において、組合員であることを理由とし、かつ組合に対する支配介入を目的にして、右のように低額に格付したものであるとみるのが相当である。

そうすると、第一審被告が右格差是正のため、A給与体系に属する組合員の職務職能給については前記非組合員の平均額まで、B給与体系に属する組合員千葉勇治の基本給については同給与体系の他の非組合員と同じ額までの賃金の格付を行ったのは、労働委員会の裁量の範囲内に属するもので適法というべきである。

なお(証拠略)によれば、第一審原告の昭和五四年度及び同五五年度の給与規定では、各組合員が属する販売職、生鮮職、事務職とも職務職能給の上限は無制限であることが認められるから、右是正措置が給与規定にない給与の支払を命じたものということもできない。

(二)  職責手当について

(1) (証拠略)によれば、第一審原告の給与規定において、職責手当は、主任以上の役職に就いた者又は一般に従業員に嫌われることの多い生鮮職(肉類、魚、野菜の生鮮三品を扱う職種)及び車輛職に従事する者に限って支給されるものであるところ、昭和五四年度及び同五五年度において救済命令の対象とされた組合員はいずれも主任以上の役職に就いていないし、生鮮職の棟方を除くその余の者が生鮮職又は車輛職に従事していないことが認められる。

(2) (証拠略)によれば、昭和五四年度及び同五五年度において主任以上の地位にある者は非組合員総数の半数に満たず、勤続年数が長いからといって当然に任命されるものではないことが認められるうえ、第一審原告における主任以上の地位の性格は前記本件一の命令につき認定したとおりであるところ、右組合員らを主任以上の地位に昇任させないことが不当労働行為に該当すると認めるに足る証拠はない。また右組合員らを生鮮職又は車輛職という特定の職に就かせないことが不当労働行為に該当すると認めるに足る証拠はない。

(3) そうすると、第一審被告が本件二の命令において、棟方を除く組合員について職責手当の支給を命じた部分は違法のものといわざるをえない。

(4) 第一審被告が、本件二の命令において、生鮮職に従事する組合員棟方の昭和五五年度の職責手当を五〇〇〇円から七〇〇〇円に是正したことについてみるに、前記別表6の昭和五五年度男子非組合員中氏名「Ⅰ」「30」「72」「28」以外の者の職責手当については当事者間に争いがなく、前記甲第二九号証によれば、右争いのある者の職責手当は、「Ⅰ」が八〇〇〇円、「30」が七〇〇〇円、「72」が八〇〇〇円、「28」が支給なしであることが認められる。

そうすると、棟方よりも勤続年数が少い別表6記載の男子非組合員が一名を除いていずれも七〇〇〇円以上の職責手当の支給を受けていることとなる。このことと、右第(一)項にみたところとをあわせ考えると、棟方の職責手当が他の者より低位にあるのは、第一審原告において同人が組合員であることを理由とし、かつ組合に対する支配介入を目的にしてしたものとみるのが相当であり、第一審被告がこれを七〇〇〇円に是正したことは、労働委員会の裁量の範囲内に属するもので適法である。

四  まとめ

以上によれば、第一審原告の本訴請求は、本件一の命令の役職手当に関する部分及び本件二の命令の棟方を除くその余の者についての職責手当に関する部分の取消を求める限度で理由があるから、右理由のある限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。

よって、右と一部結論を異にする原判決を、第一審被告補助参加人の本件控訴に基づいて右のとおり変更し、第一審原告の本件控訴は理由がないから棄却し、第一審被告の本件控訴は、第一審被告補助参加人の本件控訴がなされた後に重ねてなされたものであることが本件記録上明らかであるから不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 岩井康倶 裁判官西村則夫は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 伊藤和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例